2006年6月
有限責任中間法人「医薬品開発支援機構」
代表理事 高仲 正

 日米欧三極によるICHの成果に従い、医薬品の開発は今や国際化の一途をたどっております。しかるに、日本には欧米と比較し、ヒトRI試験実施の困難さや臨床試験実施そのものの困難さ等、医薬品開発を遅滞させている社会的・制度的問題点が存在します。たとえばヒトRI試験については、日本薬物動態学会が10年以上も前から学術年会のフォーラムで議論を重ねて来て法的にも実施することに問題がないと結論が出されていても、未だに国内では実施されておりません。このような問題を解決して三極間の制度上のアンバランスを取り除くことは、我が国において病気に苦しむ患者に適切な医薬品を一日も早く届けるために極めて重要であると考えられます。
一方、動物実験で安全性や有効性の認められた候補薬物がヒトで有効性が認められずに開発中止されることが多いことは良く知られています。それ故、ヒト由来標本を用いた薬理学的・薬物動態学的評価を行うことが必須と考えられています。しかしこのような試験を行ったとしてもヒトに投与後の薬物動態の予測は極めて困難であり、ヒトにおける薬物動態はヒトに適用しない限り予測できないとされています。
EUはこの問題を深く検討し、投与量が薬理用量の100分の1以下で、かつ100μg以下の場合には拡大型単回投与毒性試験の結果に基づいてヒトでの単回投与試験を計画しても良い、とのいわゆる「マイクロドージング試験」の考えを示し、2003年にEU域内での実施を承認しました。その後2006年には米国においても探索型IND (Exploratory Investigational New Drug)に関するガイダンスが成立し、この中には「マイクロドージング試験」の考えも導入されています。従って現時点では、三極のうち我が国のみにおいて、マイクロドージング試験や早期探索臨床試験(ヒトRI試験を含む)に対する指針が未整備のままの状況となっています。日本薬物動態学会や他の学術団体では従来より鋭意このような早期臨床試験を実施するための具体策を模索してきましたが、この度、日本薬物動態学会傘下の委員会(薬物動態試験推進委員会)の答申を受けて、日本薬物動態学会および関連学会の有志が参画する第三者機関として有限責任中間法人「医薬品開発支援機構」が設立される運びとなりました。
本法人は下部組織として中央倫理審査委員会と放射線内部被曝評価委員会を擁し、以下の8つの事業を行うこととしています。当面は放射線内部被曝評価委員会を整備し、ヒトRI試験を行う際、動物実験のデータをもとにヒトにおける内部被曝線量を科学的に評価し、年間被曝許容線量(ICRP勧告)を上回らないことの証明書を発行し、ヒトRI試験の実施を支援する事業を主として行う予定です。
 (1) 医薬品開発の仕組みや方法に関する国内外の調査,研究および評価
 (2) 審議を付託された臨床試験の倫理審査
 (3) 放射性標識物質を用いた臨床試験における被験者の内部被曝線量の評価
 (4) 臨床試験実施のための倫理基準の整備および評価
 (5) 各臨床試験施設倫理委員会委員の教育および研修
 (6) 臨床試験計画の支援事業
 (7) その他,当法人の目的を達成するために必要な事業
 (8) 上記,(2)-(7)に示された事業に必要な調査および研究
別紙に、本法人の定款(一部)を含め、その目的、事業、運営方法などを詳細に記載いたしました。上述のごとく日本においては医薬品の開発進行が遅滞している状況にあり、本法人が我が国に創設されることは極めて重要な意味を持つと考えられますので、本法人の活動につき関係諸機関・団体のご賛同とご協力をご依頼するものであります。


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